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パワプロ小説集【誰と幸せなあくびをしますか】
日時: 2005/04/16 21:56
名前: ゴズィラ
参照: http://musou.up-jp.com/

最終更新:4月16日(小説集公開)

目次

1:【はじめに】〜猪狩 進と私の小説〜

2:【ヨネザワ】〜現代兄弟概論〜

3:【本人否定】〜GAME〜

メンテ
Page: [1]

はじめに ( No.1 )
日時: 2005/04/16 21:56
名前: ゴズィラ
参照: http://musou.up-jp.com/

【はじめに】 〜猪狩 進と私の小説〜


 私が初めて書いた小説は、実況パワフルプロ野球(通称:パワプロ)のサクセス
 モードに出てくるキャラクターを使った、所謂…"二次創作"でした。私の小説ライフ
 も、この二次創作から始まったのです。いわば、私の原点なのです。今は無き、パワ
 プロ攻略・交流サイト「Pawa-Land」の、小説コンクールにおいて、【きりたんぽ回想録】
 というタイトルの、パワプロ小説を出展。恐れ多くも、特別賞を頂いたこの作品が、私の
 小説デビュー作となった訳です。ですがそれ以降、中々…パワプロ小説には手を付けず、
 二次創作から本格的に、オリジナル小説製作に転向。これまでに、少数ながら何作かの
 オリジナル短編が日の目を拝む事が出来ました。しかし、何処か…自分の奥底では、
 二次創作にまた挑戦したい気持ちで一杯でした。二次創作という時点で、自分のオリ
 ジナルではなく、"別のオリジナル"を取り扱う難しさを、デビュー作から学んだ私で
 ありましたが、敢えて…自分の次元に引っ張りながら書こうと、決心したのが…実は
 ごく最近の事なのです。

 だから、私は新たな二次創作小説製作を「ヨネザワ」から再スタートさせ、二次ながら
 "自分だけの世界づくり"を目指したのです。最初は、私の小説集「SMILING」にて、
 並走させていた二次創作ですが、こちらの小説掲示板で、改めて独立させ進行して行こうと
 いう次第であります。

 …そんな野球ゲームの二次創作ですが、私は捻くれ者です。登場人物には、滅多には
 野球をやらせません。あくまで"自分だけの世界づくり"。野球という型にはまらず、
 だけれど、パワプロのキャラクターを起用してしまう、ある意味大馬鹿者であったり
 します。そして、この大馬鹿者が書く小説には、当然のように…「猪狩 進」という
 パワプロキャラが主人公格として、登場します。登場させます。彼の何処か暗い内心さ
 が、私の創作範囲に綺麗にジャストフィットしてしまうのです、どうしても。裏付け
 として、先程私が言った【きりたんぽ回想録】でも、やはり猪狩進が主人公だったの 
 です。無意識に彼を起用してしまう私は、気持ち悪い野郎なのかもしれません。

「よし、何だったら…コイツを思う存分、動きまわしてしまおう」と。私の何かが囁き
 ました。この大馬鹿者が執筆する二次創作の犠牲者が、彼…猪狩 進です。ゲーム中で
 も不幸なイベントが多発する彼ですが、こんな私に書かれてしまうとは、やはり猪狩
 進は、パワプロキャラbPの不幸者なのです。そして、そんな不幸者に付きまとう
 御馴染みのパワプロキャラ、私が描くちょっと変わった人々…"様々な人々"に囲まれて
 彼は翻弄されたり、励まされたり、キレたり、笑ったり、互いに鼓舞し合ったりと、
 様々な日常を展開させていきます。猪狩 進も色々と変化をします、やはり"様々"に。
 普通の高校生だったり、はたまた野球マスク(パワポケシリーズに登場)になってしま
 っていたり……ん、いや…野球マスクである時の方が多いですかね…(汗)。

 私の大好きなお笑いコンビ・ラーメンズのコントのように「日常の中の非日常」には
 やっぱり彼がお似合いです。ゲームや他の小説では、どうしても脇役止まりの彼ですが
 これからは嫌というほど、彼を主人公にした…私の原点であるパワプロ小説を書いて
 いこうと思っております。付いて行きたい人だけ、付いて来てください。何ていった
 って、二次創作ですから。そりゃ分からない人もいますもの。

 どうしても付いて行きたいという方のみ、この小説集をお読みください。勿論、感想・
 文句・愚痴など、お待ちしておりますので…御自由に書き込みしてくださいね。
 それでは、いつ終わるか分からない…彼の日常をご堪能下さい。堪能できる程では
 御座いませんが。



                      2005年 4月16日 偏食怪獣・ゴズィラ  
メンテ
【ヨネザワ】〜現代兄弟概論〜 ( No.2 )
日時: 2005/04/16 22:01
名前: ゴズィラ
参照: http://musou.up-jp.com/

【ヨネザワ】 〜現代的兄弟概論〜



 "僕はとんでもないくらい、明るく振舞い続ける友人を持ってしまっている"。

 そんな彼は、僕と同じあかつき付属の二年生でクラスメイトで……野球部だ。しかも
 ピッチャーで"二年生エース"という肩書きを担っている事には正直、驚いている。
 彼の性格からして、どう考えても…想像もつかない"役どころ"なのだから…。
 そして…こんな僕、猪狩進は彼…米沢俊幸に振り回される毎日。兄さんの守にも
 兄弟という面で振り回されているが…兄さんは僕に程よい程度に手厚かった…。
 しかし…彼は容赦ない。高校内での全ての時間は…ことごとく、彼の為に潰されて
 いくのである…。 …でも…そんな彼の天然さに殴り続けられるのも…いいかな。

 "僕はとんでもないくらい、ヘンテコな友人を持ってしまっている"。

 しかし、それは逆に…規律正しくされている僕の生活に…新しい風を舞い込んで
 くれているのかもしれない。何故なら…僕は本当の"ヨネザワ"という、彼の本心を
 知ってしまったのだから。いつも、奇想天外で冗談なのか真面目なのか…全く分から
 ない事ばかり話す彼だけれど…それでも、僕は彼から逃れようとはしない。もし…僕が
 米沢君から無理にでも離れてしまったら……━━━


 彼…ヨネザワという存在自体が消えて無くなってしまうのだ…。

  

*



「……じゃあ、お聞きしましょう! 進君は"カレーライス"と"ライスカレー"の違い
 について…説明できるのか!?」
「知らないよ! 君も早く、そのカツ丼を食べなよ!」
「……じゃあ、お聞きしましょう! 進君は"勝つ"と"カツ"の因果関係について…
 説明できるのか!? ただ単の同音異義語じゃないのか!?」
「どうでもいいよ! 早くしないと…先にカレーライス食べちゃうよ?」
「……じゃあ、お聞きしましょう! 進君はやっぱり……"カレーライス"と呼んで
 しまうのか!? …はぁ……そうなのかぁ…」
「え…? …それじゃあ何? 米沢君は…"ライスカレー"って呼ぶの?」
「そうだよ! "米があってなんぼのカレー"だからねぇ♪ ライスが先頭に付くのは
 当然じゃないか?」
「………………ふ〜ん………ごちそうさまでした!」
「おい、ちょっと待ってて。3分…2分…いや、1分120秒待ってよ!」

「…………戻ってない?」
「………………ホントだ…、あ…うん、ホントだねこりゃ」

 こんな会話が、高校内の食堂で繰り広げられるのだ。一口、モノを放り込んでは
 米沢君の口からは、くだらないモノが飛び出してくるのだ。閑散としている食堂内で、
 僕と米沢君の会話が飛び交っているだけ。厨房の向こう側の職員の方が、鍋を片手に
 口端で笑っているのがチラリと見える。
 シワ一つ点在しない薄茶色のブレザーに、ワイシャツの上までキッチリ上げている
 ネクタイの僕と、……ブレザーではなく…シワだらけのワイシャツ姿で、ネクタイも
 中途半端な位置にぶら下がっていて、髪もワックスの所為で立ってしまっている米沢君。 
  対照的なまでの二人…。まるで一般人と不良…。クラスでも奇怪な事に席は隣同士…。
 と、いう訳で……無論、授業中も先生が黒板に向かっている隙を覗っては、真面目に
 ノートを取っている僕の耳に己の手を宛がい、ヒソヒソ話を展開してくる。この瞬間
 が一番、ゾクリと来る。

「…………進君の左頬……バンソウコウ……気になる…。……封印?」
「だから…米沢君、何も封印されてはないよ。……って、授業はしっかり聞こうよ」
「何だとぉぉ!!」
 僕の耳に宛がっていた手をパッと離すと、行き成り席から立ち上がり、クラス中を
 騒然とさせる。 "あちゃぁ〜"と思いながら、僕が額に手を添えてガックリと落ち込ん
 でいる素振りを見せても、米沢君のナチュラルパワーの暴走は止められない。

「これだけは言っておこう、進君! 訳の分からない"レ点"やらが付いてる漢文の授業
 なんかどうでもいいんだ! そんな事より、その! 君の! バンソウコウの秘密!
 その裏には何があるんですか!? 剥がしたらどんな怨霊が、こう……ブワァーって
 出てくるんですか!?」
「………いやぁ…少なくとも、怨霊は潜んでないよ」
「じゃあ何なんだ!! ご先祖様の御霊か!? …ん? ライトセーバーか? こう傷口
 から…光が溢れ出て…剣の形になって…そしてシャキ――――ン! …そうなんだ!!」
「勝手に決め付けないでよね……」
「うん、決まった!! 進君のそのバンソウコウは仮の姿なのだ…! フフフフ…、敵が
 襲って来た時の為の……ファイナルウェポンなのだぁぁ!!! シャキ――――ン!」

 立ち上がり、身振り手振りを交えながら力説している米沢君に、僕はすっかりウンザリ
 冷めていた。授業が壊されていくのに堪えられなくなり、涙目になってしまう弱い僕。
 無論、クラスの皆は、彼の姿に釘付けである。
 ……でも、皆は認めていたんだ…彼…"ヨネザワ"のことを…。国語の女の先生だって、
 怒っていやしなかったんだ。ただ目頭を押さえている僕の肩を…擦りながら…

「猪狩君…どうか彼に惑わされないでね。…君も分かっているでしょ? 彼も…貴方…
 "猪狩進という姿の存在"が必要なの…。そこの部分は…理解してあげて…」
 先生の言葉に、僕は我に帰り…言葉に煮詰まりながらも、ゆっくり舌を動かす。
「………はい、分かりました………。僕が…しっかりしないと…いけないですよね」
「そうね。彼を支えられるのは…きっと、猪狩君しかいないんだから…」

 必死に…必死に、涙を拭って……僕はやがて、横にいる米沢君のワイシャツの裾を
 グイッと掴んだ。泣いてはいない事をアピールするみたいに、米沢君に……真剣な
 眼差しで話し掛けようとした。その時、彼のマシンガン・スピーキングは、ピタリと
 五月蝿さを無くしてしまった…。

「米沢君………授業、聞こう? 君の話なら放課になったら、いくらでも聞くからさ」
 その言葉で、彼は気力が全身から排出されたように、コテンと席に座り直した。
「……ゴメン…ゴメン、ついさ…自分の話に酔っちゃうん…だよね」
「大丈夫! …君は……悪くない。君を止められない僕が……悪いのかもね」
「……ゴメン…ね。僕は……こんな性格だから…」
「……うん、君は…米沢君は気にしなくても良いんだよ」

 僕は左頬のバンソウコウを触りながら、静まりかえっている米沢君に微笑んで見せて
 あげた。"この秘密なら後で、幾らでも教えてあげるよ"…なんて答えながら。 

 そうさ…そうなのだ、多分…きっと…、彼の今の人格には何の罪も無いのである。
 米沢君は悪くない。でも…"ヨネザワ"という存在が、彼を羽交い絞めにしているのだ。

 米沢君は悪くない。でも…"ヨネザワ"という存在を受け入れている彼は、既に…
 犯罪者なのかもしれない。 僕の直ぐ横で、未だに自分のしてしまった事への後悔の
 念に駆り立てられている米沢君の姿。力無く、猫背で座っているその様は、彼の本来
 の人格を見せびらかしているように思えたのは…果たして…、僕だけなのだろうか。

 彼から、時々飛び込む声……"ゴメンね"と。
 
 そうさ…そうなのだ、多分…きっと…、こんな彼を支えられる役目は…僕なのだ。
 明るくも、こうして切なさも醸し出す彼を、汗流しながらも支えられるのは、きっと
 僕という人間が…必要なのかもしれないんだ。

 僕…猪狩進は、"ヨネザワ"という存在を知ったのだからね…。

「…でも……良かった。バンソウコウの中身が怨霊だったら、困るな…。今は生憎、
 伯方の塩とかは持ち合わせていないからね。振り撒けないからなぁ…」
「そう…。僕も…困るよ。塩なんか振り撒けられるとね」

 それでも…こんな状況でも、冗談を言い続けようとする彼の努力には感服する。
 冗談だけれど、僕は冗談抜きで…本当に感服してしまう。 ━━━ヘンなの…。
メンテ
【ヨネザワ】〜現代兄弟概論〜 ( No.3 )
日時: 2005/04/24 00:54
名前: ゴズィラ
参照: http://www.musou.up-jp.com/

 そんな出来事も、彼は今日の内でさっさと忘れてしまうのである。頭の切り替えが
 ズバ抜けているかどうかは、知る由も無い。いや…あまり知りたくも無い。知りたい
 と思う頃には、また米沢君は突っ走っているんだから。 それは、部活…野球部の
 練習時にもそうなのだ。

 そして………同時に、"ヨネザワ"という存在が垣間見える時……。

「兄さん、そうだね…最後の一球は外角低めに真っ直ぐで行きましょう」
「…分かった、アウトローだな」
 あかつき大付属野球部の専用グラウンドの敷地内、太陽に身を照らし…放課後の夕焼け
 を受けながら、皆は各自取り組んだメニューをこなしている。ベンチ横のブルペンで、
 僕と兄さんは時折垂れる汗を気にしながら、右打者を想定した投球練習に励んでいる。

 そして、兄さんが最後の白球を投じようとした時…、ベンチから"次の順番"を待って
 いる米沢君から、僕等の覇気こもった練習を削ぐような台詞が投げられて来た。

「アウトロー…! 男はやっぱり"アウトロー"に生きるべきですか? 守先輩!」
 ワインドアップからの投球をストップさせ、振り上げていた腕を下ろす兄さん。
 両眼をキョトンとさせながら…彼の言動を気にせずにはいられない様子であるようだ。
「君は…この状況が分かるだろう。君の考えは……"アウトロー=擦り切った不良のよう
 な連中"を指しているようだけれど……、君も投手という肩書きを担う者ならば、練習
 の時は責めて、"アウトロー=ストライクゾーンの外角低めのコース"くらいは理解
 出来ないのか!!」

「…あ、なるほど。話が見えてきましたよ」
「何が見えてきたというのかい?」
「つまり、つまりですよ? アウトローという定義は、外側の低め…という事……
 になる訳ですよね? 確かに…打者にとって外側はキツイですからねぇ…」
「…………そうだよ…。って、今…僕が言ったよね?」
「やった! これで解決ですね! テッテレ〜〜♪」
 大きく両手でガッツポーズする米沢君はきっと、兄さんにとっては異色に感じた
 だろうね。でも米沢君は、自分は"自然体"を貫いているとか思っているだろうな。

 目を輝かせながら話に夢中になる米沢君と、グラブを嵌めたまま、溜息ついでに頭を
 抱える兄さん。……しかし、兄さん…猪狩守も、また"ヨネザワ"という存在を知った
 一人なのだ。 兄さんだけではない。この学校中の皆も…"ヨネザワ"という存在に
 気付いている。彼の抱くもう一つの世界の広がりを、毎日受け止めているのだ。

「……もう、いいや。…進! ラスト、行くぞ!!」
「いつでもどうぞ、兄さん…」

 兄さんが辛うじて、邪念を拭き取って投げた投球は、いつにも増して…重くズシリと
 体感できる球質である。僕のキャッチャーミットは、"バシンッ!"と鋭く、乾いた音を
 響かせていた。そして刹那……、兄さんは何かに吸い込まれるように、ふと…ベンチに
 待機中の米沢君に視線を流した。僕も、ボールをミットに収めたまま、ハッと米沢君に
 眼を向ける。

 そこには……

 時が止まってしまったように…ゼンマイが止まってしまったように…、米沢君は瞬き
 一つもせずに、僕等…"兄弟"を眺めている。 ピクピクと突発的に唇が震えるだけで
 米沢君は"時が静止する空間"に迷い込んでしまっている。逆回転する懐中時計たちが
 漂う、抽象的な空間に…彼は誘われているのかもしれない。 自分の犯した過去を、
 さぞかし熱心に振り返るように、過去と現在を行き来するのだ。 まるで、兄さんの
 最後の投球が放たれたのが、タイムスリップの引き金になったかのように…。

  ━━僕にも……僕にだって………兄さんが…いたさ…。兄さん……兄さん……━━

 光が突き抜けたようなこの短い間に、彼は過去を想っていた。
 僕…猪狩進と、僕の兄…猪狩守を食入るように、懐かしそうに眺める米沢君の中には、
 "ヨネザワ"というもう一人の存在……即ち"第二の人格"が形成されている。
 きっと…きっと、彼が投球練習を始める頃には、米沢君はもう米沢君ではない。
 悲しいけれども…僕も、この時ばかりは米沢君ではなく…"ヨネザワ"として、
 彼の人格を…彼の投球と共に受け止めるのだ。

 彼は……"ヨネザワ"なのだ……。


*


 暫くして…彼は重い腰を上げ、兄さんとバトンタッチをする感じで、ブルペンのマウン
 ドに登る。青色の彼のグラブと、緩やかなカーブが形作られているツバが付いている
 使い古された野球部の帽子を被れば、彼のスタイルの完成。

「……進君、今日は何球くらい…投げようか?」
「君が決めれば良いよ! 何球だろうと、僕は付き合ってあげるけど…?」
「そうか…。それじゃあ…気の向くままに……気が済むまで……」
「……分かったよ。……君が……納得するまでね…」

 僕は再び、キャッチャーマスクを装着し…引かれた白線の上に身を低く、そして構えた。
 マスクの隙間から見える彼の姿は…まるで…まるで、別世界の次元だった。
 いつもひょうきんな米沢君。いつも変な冗談ばかりで…僕を無理矢理笑わそうとする
 米沢君。そんな米沢君はもう居ない……。マウンドに居る彼は、笑ってはいないのだ。

 泣いている…。

 僕と…米沢君の横に立っている兄さんを気にしながら、泣いていた。けど、帽子を
 深く被り、懸命に堪えつつ……足を振り上げ、腕を振りかぶって…僕のミットに、
 ボールをぶち込み続ける。  がむしゃら…とは、こう言った状況を指し示すのだ
 ろうか。 僕がサインを言う前に、彼は既に投球モーションなのだ。形振り構わず、
 深く身を沈ませ、サブマリンから次々に、投球される。
 カーブ…シンカー……シュート…ストレート。とにかくマウンドから放った。
 撓る右腕から…次々と……。

 彼はやっぱり、"ヨネザワ"だった……。

 小休止を入れる事無く、"ヨネザワ"は唸る右腕から…多種多様な球種を無作為に
 投げ続けた。…兄さんの投球練習より、ずっとハードな内容だ。僕はマスク越しに
 微弱に震える息を吐き、"ヨネザワ"は流れ滴る汗を、顔をブンブンと横に振り払い
 ながら…大きく口を開け…荒々しく息を吐く。
 それと一緒に…"ヨネザワ"の頬には涙が伝わり、まだ瞳が潤んでいる。
 まだ…投げようというのか…、僕の顔をハッキリ捉えている。僕も彼の顔を正面から
 ハッキリ捉えていた。その時であった…。マウンドの横で腕を組みながら見守っていた
 兄さんが、慌てたように、僕に向かって首を横に振り、彼の限界点を知らせてくれた。

「米沢君……。終わろう…」
「……僕の気が済むまで…と言った筈だけどね……」
 呆然としながら僕は立ち上がり、マスクを外し…マウンド上で肩で息をしている
 米沢君を静止する。もう…何十分と、間髪入れずに投げ込み続けたのだ…。もはや、
 "気が済むまで"とか、そのような問題ではない。しかし、"ヨネザワ"は細く眼を光らせ
 僕をキッと睨みながら…息も絶え絶えな声で続ける。
「まだ…まだだ……。……!! うぁ……ふぅ………」
 次の動作に急いだ時…彼の体は、無情にもマウンドの上で崩れた。
「米沢君!!」
 
 でも…彼は崩れ去った体を無理にでも立ち直そうと必死にもがいている。
 でも…"ヨネザワ"の弱りきった視線は、ちゃんと僕に真っ直ぐに見つめていた。
 僕の顔を見て、安心したのか…彼は、脆弱な声量で、笑いながらボソリと呟く…。

「兄さん……。兄さん、ゴメンなさい…。僕は…やっぱり、役立たずだよ…」

 "僕を…僕を、"兄さん"と呼ぶその声…。同級生を、兄と呼ぶその声…"

 "役立たず"にアクセントを強調しながら、彼は"僕の兄さん"に抱えられながら、
 真っ白になってしまっていた。……思考も…感覚も…リセットされたように……
 "ヨネザワ"は消沈したのであった。僕は、マスクをポトリと落として…体を両手で
 擦りながら、震えを抑制する。 僕も……リセットされそうだよ…。

 ━━駄目だよ…。僕には……荷が重過ぎるよ。君のお兄さんだなんて……。でも━━…

 意識が朦朧としている彼を、ベンチに移動させている僕も、体が身崩れしてしまい
 そうだ。滲む両目を片方の袖で何とか抑えるも、"ヨネザワ"…もとい、米沢君の
 発言に…翻弄されている僕……。いつも言われている事だけれど、やはり何度言われ
 ても、辛い…辛すぎる。共に運ぶ兄さんに"大丈夫か?"と問われても、今の僕からは
 何も出てくる余裕は……きっと無い。


*


「また……お兄さんを…思い出してしまったんだね?」
「そうだよ…。僕はいつも思い出すんだよ。進君を見る度に……君が…兄さんと重なる
 のが……怖いんだ……」
「怖いから…マウンドに上ると、米沢君はあんなに…強がって見せるんだね…」
「僕は…僕は……、君を殺すつもりで全力投球…してるんだ…。そう…殺すつもりで。
 かつて…僕が、"僕の兄さん"にしたように…。今度は、進君をも殺そうとしている」
「だから……君は…、"殺す"という衝動に駆られないように、無理にいつも、明るく
 振舞っている。周囲を巻き込んでまでしなければ、君は僕を殺してしまうんだ」

「でも…!! 進君は…こんな狂った理性を持つ僕を許してくれている!! …なのに、
 なのに僕は…!! 僕は……ボクハ……」
 
 ベンチにて…、僕と兄さんに板挟みされるような形で、米沢君がチョコンと座っている。
 僕達…"兄弟"に挟まれながら、彼はスポーツタオルで顔を覆い、下唇を噛み締めながら
 悔し涙を流している…。そんな米沢君に、僕が出来る事といったら…、彼の震える膝を
 擦ってあげるくらいだ。そうしていたら……何だか僕も歯痒くて、さっきまで兄さんに
 励まされながら耐えていたものを…とうとう、目尻から零してしまう。


          <……僕は、米沢君に殺されようとしている。>

*

 ━━━米沢君のお兄さんは"生前"、僕と同じ捕手で…彼とバッテリーを組んでいた。
 リトルリーグの頃から、チームの中心的存在で…毎試合を湧かせていたんだ。でも、
 お兄さんは……米沢君を妬んでいた…。何故ならば、"兄という存在を差し置いて、
 弟という存在が実力が上手だったから"。 それは…試合数をこなしていくだけ…
 募るばかりだったそうだ。

 中学校に上がってから…、彼の兄は有望視されている自分の弟に殺意を抱き、何時しか
 "自分の弟を殺すことしか"考えられなくなった。 ……部活でも、兄は…米沢君を避け
 別の投手と練習をしていた。 しかし…米沢君は…"兄"を失いたくなかった。必死に
 お兄さんにアプローチし、また一緒にバッテリーを組むことを志願し続けたのだ。

 しかしそんなある日、彼のお兄さんの口からこんな発言が飛び出たという…。

 "お前と組むと……キャッチャーミットの代わりに、ナイフを持ってしまいそうだよ"

 ……と。狂った思想家になり掛けていた兄に影響されるかのように、米沢君の心も
 侵食されていった。……全てを……悟った。"自分は自分の兄に殺されようとしている"
 と…。

「だから…僕は……殺したんだ! 兄さんは…僕をナイフで殺そうとしていた。だったら
 僕も、兄さんを殺す手段は……ナイフしか無い…ってね」
「……米沢君…」
「そして、僕は殺した! 自宅の兄の部屋で本人を待ち構えた…。こっそり…ポケットに
 忍ばせながら……ゆっくりと………"歴史的瞬間"を待ち望んだんだよ…」

 いつか……彼が話してくれた会話の断片。この時の彼は、淡々と面白おかしく語って
 くれたのを覚えている。………"ヨネザワ"の笑みから読み取れるものは…… 

            ━━━殺して…良かったんだ━━━

 典型的な理由だったのかもしれない。殺さなければ、自分が殺されてしまう…。
 野球が出来なくなってしまう…。とにかく"ヨネザワ"は満足気だった。家裁で特別
 保護観察という形で、施設には入らなかった米沢君。それが善し悪しのどれを示唆
 しているのかは……分かんない…。

 こうして米沢君は、"ヨネザワ"という人格を背負ったまま、曲がりくねった坂道を
 登りながら…今の経緯に至るのだ。"そんな前科の輩とは交わりを得るな"と、父さん
 にキツクお灸を据えられるけれど……僕は、偶然にも出会ってしまった"ヨネザワ"
 との関係を切除したくなかった。彼は……今…泣いているのだ。僕…猪狩進という、
"理想のお兄さん"にすがり付きながら…米沢君は自分を見知らぬ壁に叩き付けている。
そんな彼を救えるのは、しつこいようだけれど…"兄さん"と呼ばれている……僕かも
 しれない。

 僕なんかで良ければ、幾らでもしがみ付いても……大丈夫だよ。

*


「泣けば良いさ…。泣いていれば良いさ…。お前の"気が済むなら"それで良い…」
 "僕の兄さん"は、米沢君の肩を撫でながら…盛り上がった土が異常に抉られた、
 ブルペンのマウンドを、寂しそうに"鑑賞"している。
「うううううぅ…! こほっ…ぅん! うわああああああぁぁ!!」

 真っ赤に腫れ上がった瞳は、何を物語ろうとしている? 自分の過去? それとも、
 今を生きる自分? 米沢君ほど、不思議で…繊細で…大胆な人はいない。
 同級生を"兄さん"と呼ぶくらいにまでなってしまった、ちっぽけで間違った彼の心の
 隙間。そして泣き叫ぶ、彼の悲痛な心の空間…。 …空間は鋭利な刃物で切り裂かれ…
 より一層、内部を広くする。 それは僕への殺意の源なのか、それとも…自分で自分を
 殺そうとしているのか…。

 でも…僕は信じたい…! 米沢君の切り裂かれた空間に入り込んでくる、隙間風が
 そのまま米沢君の生きる糧になる事を。澄んだ空気でいられるように…。例え、煙
 混じりの風だとしても、僕と米沢君で澄んだ空気に変えれば良いじゃないか…。

                ━━━だから━━━…

「僕は……君のお兄さんで良いよ…」

  ━━━君から…"殺してしまった兄の残像"という僕への殺意が消えるまで━━━…

「僕は!! 僕は!! …いつも、君に迷惑しか掛けられない……。そんな存在しか…
 ならない…!」
「そうかな? 結構な退屈しのぎだよ。飽きないよ、毎日がね♪」
 米沢君はまどろむ瞳を僕に光らせ、僕のユニフォームの袖を握り締めている。
「"兄さん"……。君は……本当に僕の…"兄さん"と呼んで良いの…?」



  ━━━好きなだけ…そう呼べば良いよ…。君から…"ヨネザワ"が消えるまで━━…

* 
 
 真っ赤に燃える西の空。間もなく、夕闇が辺りを覆わんとする頃…僕ら"兄弟三人"は…
 ベンチにたたずむ。心身ともにグシャグシャになって、疲れ果てて眠っている米沢君
 を、僕と兄さんで尚も板挟みしていた。 それを眺めながら、僕…猪狩進と、兄…猪狩
 守は、ホッと安堵する。 米沢君の涙で半乾きの顔に、夕陽が照らされ、煌々と輝いて
 いた……。 でも明日には、涙はもう乾ききり、いつもの"米沢君"に戻っていること
 だろう。いつも通りに、冗談を言い…僕を困らす米沢君がいる筈だろう。

「明日には…"全てが白紙"になってるだろうな…。なぁ、進」
「仕方ないですよ。兄さん…。……そうしないと、米沢君は前へ進めない…」
「可笑しな話だな…。全く…、同級生を"兄"と呼ぶ奴が、この世の何処にいる?」
「ベタな振りですね。……そんな彼は、今…こうして互いの隣りに健在ですよ…」

 僕らは横を振り返る。そこには、寝たっきりの彼の姿が…。いや、僕からすれば…
 弟の姿がいる…。不思議な事に、僕と米沢君は同い年にして、兄弟の関係になって
 しまった。 でも、そんな関係も…いつか終わると信じて━━━…



 ━━僕はとんでもないくらい、明るく"振舞い続けようとする"友人を持っている━━



 あ…、いやいや失敬…。……現時点では…"弟"だね…。



 ━━━ヘンなの…。







fin.









【あとがき】

 恐らく、私のパワプロ小説デビュー作「きりたんぽ回想録」から、約1年3ヶ月ぶり
 のパワプロ小説です。とにかく、設定が気味が悪いくらいにヘンテコな小説…。こんな
 のを、果たしてパワプロ小説と呼んでい良いのか? でも、パワプロ小説なのです、
 敢えて言えば。今回はパワプロの看板キャラ・猪狩 守……の弟の進を中心に描いた
 つもりです。はい、そのつもりです。そして、私の小説に付きものの、"よく分からん、
 変わった性格のキャラ"を…パワプロキャラでの"主人公"に見立てて、物語を展開しま
 した…。 こんな小説を、「海の見える高台への家」のFourRami様への相互リンク記念
 小説として、贈らせて頂くのは、余りにも迷惑千万だったなぁ…と非常に後悔していま
 した。ですが…FourRami様に受け入れて貰えたので、"あぁ…書いて本当に良かった"と。
 内容がどうあれ、久しぶりのパワプロ小説を執筆できたのは、筆者としては…それだけ
 でも満足なのです。 

 <"異物"が存在する日常>…そんな日常が、私たちにとって非日常的でも、この小説
 では、ごく当たり前の日常…。でも、こんな日常…実際にあったら、嫌です(苦笑)。


                    2005年 1月11日 執筆完了
                    2005年 3月9日 あとがき執筆完了

                           writeen by ゴズィラ


 (「海の見える高台の家」様・相互リンク記念小説)    
メンテ
【本人否定】〜GAME〜 ( No.4 )
日時: 2005/04/16 22:05
名前: ゴズィラ
参照: http://www.musou.up-jp.com/

【本人否定】〜GAME〜



 "九回の表…一点リード。しかし、二死満塁…。逆転の可能性もあり得ます!"
 "…いいともさ。進君のリードがあれば、この状況は…打破できるさ!"



「……外角…高め……スライダー」
「良し…"YES"!」
「ポドス選手に対しての第一球目……外角に決まり、ストライク…」
「ん…じゃあ進君、二球目のサインをお願いできるかな?」

 グラウンドの片隅、右翼席のポール付近で…猪狩進と、神童裕二郎は、互いに背中
 合わせで座り…瞑想するかのように目を瞑り、ブツブツと会話を繰り返す。神童の
 口からは、進の問いに対して…の回答を続けていた。…大リーグ・
 レギュラーリーグのRED・ANGELS。…その本拠地で、サウスポーエースと、レギュラー
 捕手の日本人が…"イメージトレーニング"と銘打ち、行っているこのゲーム…。

 二人の周りに…チームメイトの人だかりが、いつの間に出来ているのは…いつもの
 光景だったりする。神童が先発投手で、進も捕手として出ている試合の想定…。進の
 サインに納得したら…"YES"。そうでなければ、"NO"。サイン成立ならば、"投球"と
 なり…その投じた結果は、その時の進の頭の中に張り巡らされた、データに基づき…
 判定する。 中々、興味深い内容だが…判定するのは、一個人の気まぐれに過ぎない。
 神童が気が付けば、"大乱調"になる事もマンザラではないようだ。この日も、"神童の
 調子"とやらは…今ひとつ。

 でも進は、"神童の乱調"を自分のせいにしてしまう…。自分の判断した結果に…そして
 自分が野球をしている事にも…納得はしていないようだ…。

「…真ん中…低め…直球…。カウントは2−3です」
「……"NO"!」
「……うん? …そうですか…。じゃあ…内角…低め…同球種」
「"YES"」
「ポドス選手に対しての第六球目………。…左中間を破る…2ベースヒットです…」
「………そうか…」
「ランナーが一掃されました…」
「あぁ…ゴメンな、進君…。ちょっと…僕がすっぽかしてしまったみたいだね?」

「いえ、貴方の投球は…完璧でした…。何一つ落ちこぼれた投球は…ないんです!」
 進は少し体をふら付かせながら、何とかその場から立ち上がる。神童の広い背中から
 離れた彼の姿は、一見すれば禍禍しいと感じるに違いない…。進は…掌を空に向け、
 雲を掻き毟るように…、何かに憑依されたように…進は、白く縮んでしまった瞳を…
 必死に西海岸沿いに走る…青く輝く空の雲を…羨望するかの如く、"雲"を望んでいた。

「……! 本当に済まないけれども、皆…少し……進君と僕とで…二人にしてくれない
 かな…? 僕達も…後で、皆の元へ戻るからさ」
 進の異変…。それでも神童はあくまで冷静沈着を貫き通し、周りを囲む…自分たちより
 もガタイ体格のチームメイトに、申し訳無さそうに手を合わした。…彼等は、体格の
 外観とは裏腹に…物分かりの筋はある。一人が神童の頭にバフリ! と大きい日に焼け
 た掌を置き、歯を剥き出しに大きく高笑い。

「HA! HA! HA! イヤァ、Sorryなのはオレタチダゼ。……ジャマをシテ…ワルカッタナ。
 …ダイジョーブ! …アトデ、ユックリ…ナ?」
「……うん、また……後でね…」
「See you again!」(またな!)

 皆はそれぞれ、思い思いのグラウンドの場所へと、自分達の練習ポジションへと帰って
 いく。それを見送ると、神童は…再び、切なさを噛み締めるように…進に目を光らす。
 ANGELSのイメージカラーの赤キャップを…後ろに被り…、全身も大リーグ・レギュラー
 リーグ…強豪チーム所属の証…赤と白の色が配色されているユニフォーム。

「神童さん…」
「……どうしたんだい? 進君…」

*

 空の彼方を請うようだった視線を横へとスライドさせ、…自分の視線の方向に立っている
 であろう僕の姿を捉えている。…しかし、焦点の定まらない…酷く、白色に濁った瞳は…
 恐らく…僕の姿なんて正確に捉えていない筈。ミステリアスな進君の瞳は、腐りかけて
 いるのだから…。 ただ…"僕の居る方向"を直感的に察知し、ゆっくり口を開く。

「今の上空……どんな感じですか…?」
「あぁ…そうだねぇ。…凄いよ。白雲の量も丁度良くてさ……空自体も…太平洋の海を
 映したみたいで…綺麗で…」

 僕はポールが聳え立つ、もっとその先を垂直に見上げた…。晴天に恵まれ、まさしく…
 地上から見渡せる絶景。透き通るようなスカイブルーに、トッピングされたように…
 神々しい太陽と、その使いの雲が連なる。何という壮麗な…昼下がり。…暫くして、
 僕は空に移し変えていた感情を、再び進君に移入する…。

 僕と同じ、赤色のキャップ…、ユニフォーム。白く濁ってしまった神秘的で、悲しい瞳。 

   ━━そして……時折、風に吹けば薬品臭が漂う…"緑色の髪の毛"━━…

 僕のズボンの中には、彼の…必需品…白縁の視力認識ゴーグル。言葉には出してはいな
 いけれども、きっと困っている…。そう、口には出せないだけ。彼は僕に、とても…
 とても、遠慮していた…。━━━でも…オリックス時代からの仲じゃないか!
 ━━━遠慮なんて…一つもする必要は…君には無くても良いんだよ…。

「ぅあ! ……神童さん?」
 僕は、慎重に敢えて何も言わず、背後から彼の両眼にゴーグルを掛けさせた。すると、
 ビクリと彼の体はひきつって、刹那の間の…視界の転換に驚いてしまったようだ。
「おっと、ゴメンよ。驚かすつもりなんて、毛頭無かったけれど…。でも、やっぱ、
 この方が…よく見えるだろ? …空がね!」

 ゴーグルを手で擦りながら、進君は小さく顔を頷かせた。すると、戸惑いながらも…
 今度は僕の姿を完璧に捉えながら、彼は震えた声で…僕に訴えた。
「神童さん…。僕の事を…貴方は否定しなかった! あんな滅茶苦茶な瞑想ゲームでも、
 貴方は…僕を嫌わなかった! …オリックスに在籍していた頃だって…そうでした…」
「進君…、焦って話さなくても構わない…。…もう一回、座ろうか?」
「……はい、すみません…」

 さっきは背中合わせ。でも今度は面と向かい合う。深呼吸するように促すと、進君は
 高鳴る胸の鼓動を自制するかのように、胸を軽く押さえながら…息を整える。そして
 柔らかい天然芝生の上で…進君は、西海岸の町を照らす…空全体をチラリと、見向き
 ながら…大分、落ち着いた口調で…僕に話し掛けてくる。

「僕は…兄さん以上の大切な支えを見つけたんです。"プロペラ団の捨て駒"なんて…
 世間から囃し立てられていた時、僕は…オリックスに入団した…」
「………」
「でも、でも! 神童さんは…僕の全てを抱擁してくれた…。……嬉しかった…!!
 貴方は気兼ねなく、僕との練習を積極的に組んでくれましたね…。貴方は…僕にとって
 "野球の原点"のような、大切な存在…です。昔も今も!」

「ありがとう、進君…。僕も…進君は…大切なパートナーだよ!」
「…………僕が、思い悩んでた時は…よく、美味しい神戸牛のステーキのお店に連れて
 行って貰っては、心が晴れるまで……僕の話に対して、親身になって答えてくれた」
「ハハハハハッ! あった、あった。…あの時は、僕も…本当に安心できたよ…」

 僕が声を出し、笑っていても…進君の表情は冴えない。それはゴーグル越しからでも
 はっきりと分かる。彼にとって、その白いゴーグルはただ単の"表情隠し"の道具なの
 だろう…。けど、僕には…隠された進君の心情がそのままそっくりと、ゴーグルから
 零れているような気がした。 明るすぎる空とはまるで対照的な自分を隠すように、
 進君は…僕とも…目を合わそうとせず……いや、視界を無くそうとした…。

「僕のこの姿は…"偽り"なんです。僕は貴方とはいつも、このゴーグルを装着して……
 顔を見合いながら…話し合いました。でも、結局…それは虚像に過ぎないのですよ」
「君は偽りなんかじゃない…。現にこうして、進君は…僕と話してるじゃないかい」
「あっと…イケナイ…」

 徐に、進君は例のゴーグルを額にまで上げて…僕に"本質"を見せる。
 ………進君の瞳からは…涙ではなく…"真っ白な液体"が流れ…頬にシルクの印を残す。
 決して…"涙ではなく"…まるで錆び付いた機械の隙間から流れ落ちる、腐敗したオイル
 のように…、進君の涙腺も…人体改造によって破壊され…何かしらの排出物を示すよう
 に…ふいに流れ出るのであった。

「……ごめんなさい、神童さん…。僕は"不純物"なんです、昔から言ってますけど。
 色んな要素ががむしゃらに混ざり合って、構築されているんですよ…! だから…」
「だから、君は自分を"虚像"と呼ぶのかい…?」
「……はい、すみません…」

 何度も、進君は僕に謝る。僕にはその意図らしきものが理解できないが、きっと彼は
 "虚像"を受け入れてくれる僕のことに対し……、"それは誤りだ"と投げ掛けている様で
 堪らなかった…。……"虚像"なんかじゃない。ましてや、遠くに浮かぶ蜃気楼や、陽炎
 のような浮いた存在ではない…。君が…どんなに眼から"白い液体"を流そうと、どんな
 に一風変わっているように捉えられてしまう、エメラルドグリーンの髪の毛を……
 持っていようと、進君は…進君なんだ。その存在は、神様だって変える事は出来ない
 筈さ。

 でも…それを自分の手で強引に変えようとするのは…ルール違反じゃないかな?
 "消し去ってはいけない"。過去の産物から逃げる事無く…足元から延びている、道を
 見据えて…生きてゆくんだよ。……だから、君に課せられた長い道筋を、また階段を
 "走れるようになるまで"、僕も一緒に…歩いていく。

「進君…。君は君なんだ! 猪狩進という君は…こうして、僕の目の前に座っている。
 オリックス時代を過ごした…昔も、そして…今も…、君は…僕に話してくれている」
「神童さん……。…どうして、そんなに僕を認めてくれるんです? こ、こんな僕の
 事を認めても……何も……ぁ」

 僕は進君の傍に近寄ると、右袖で彼自身の"排出物"で汚れてしまった顔を拭き取る。
 途中欠けの彼の台詞。……でも、そんなものはどうだっていい。君は否定しなくても、
 今の環境は…進君を精一杯…もてなすように迎え入れてくれている。認めている。
 僕なんて、案の定…君の人柄…"優しさ"に何度だって触れてきているんだ。進君は…
 高校時代…事実、オカルト教団に染まり…道を外した。

 そして…君は"野球マスク"という呼称までオマケで付けられた。
 でもな、進君…、君は"野球に対する温かい情熱"は…何一つ…変わっていない。
 罪滅ぼし…ではなく、それが君の本来の姿なのだからね。…きっと、"野球の楽しさ、
 素晴らしさを伝えていく"、僕の遥かな夢を…君は……引き継いでくれる! 

「……だ、駄目ですよ。神童さん、ユニフォームに無駄な汚れが……」
「大丈夫だよ! 洗えば落とせるさ…。……ほ〜らっ、その代わり綺麗になった!」

 僕は腕組みをして、進君の顔を覗う。彼は軽く息を吐きながら、あどけない表情を
 表している。額に上げたゴーグルのレンズが日光で、キラッと反射するように…
 進君の心身も輝きを取り戻してくれたような気がして…。

「進君は…本当に温かいね…。表情も…野球をしている時も…、全部そうさ!」
「人をからかうのは…体に毒ですよ…」
「ハハハハッ! からかってなんかはいないよ。…ただこれだけは、信じて欲しい…。
 僕は君を否定したりしない! なのに……さっきのトレーニングゲームで、君は…
 僕の投球配分を、自らのせいにしていた…、否定していた…。…何故だい?」

 進君はゴーグルを掛け直すと、ゆっくり手を地面につき、立ち上がる。さっきは
 軽くではあったが…今度は肩で大きく息をし、ゆっくりと僕の前を通り過ぎる…。
 すると彼は、ポールの前で足を止め…ペタペタと金属製のそれに、手を宛がうと、
 進君は…自らの拳を振り上げ…ポールに行き成り、右ストレートをお見舞いする…。
 ポールの隅を僅かながら掠ったものの、ポールは鈍い金属音を響かせていた…。

「…………成るほど、進君。君は"自分の力"が…憎いのだね?」

 彼の行動の意味を直ぐに悟った。ポールは、掠った部分が見事に抉られており、
 内部の空洞までハッキリと分かるくらいに…貫通している。しかし、彼の右腕は…
 鉄くずを微小に帯びているだけで、掠り傷一つも負ってはいない。でも、僕はそんな
 彼の"自己主張"には全く動じようとはしなかった。そして彼は冷徹な表情を僕に向けて、
 密かに微笑している……。

「神童さん…。"これは明らかに僕ではない"のです。……こんな、鬼畜地味た力…、
 人間では出来ないのでは?」
「だから…何を僕に言いたい?」
「僕は幾度と無く、あの組織に"ヤク漬け"にされて、もうそれが…抜け切らなくなる
 までになってしまったのです。もう……こんな体、無くせるものなら…」

 進君は自分の体全体を、恨むように眺めていると…、力が放出されたように…、フェンス
 に凭れ…ずり落ちながら…座りこけた。時々、ゴーグルで指で押し上げながら…、何か
 光るものを拭き取る仕草を見せながら。

「こんな…こんな…の、滅ぼしたい! …僕は…自分が憎いんです…」
 
 そして…彼は完全に塞ぎ込んだ…。声まで完全に霞みに包まれて…、静かなる自暴自棄
 に犯されようとしていた…。そういえば……こんなのは、初めてじゃなかったっけ。
 進君は…見えぬ病気に浸食されている…。憎き己の体を呪い…恨む……。そして、
 そんな彼を平穏に導く役目は僕が、代々担ってきた。…僕は…進君のパートナーとして
 良き理解者として…、今までずっと…色々な進君を見た。

 今回も例外じゃない。だから、難しい事ではないんだ…。"本人否定"…自分自身に
 犯されている体を治すには…僕…神童裕二郎が唯一の特効薬になる…、そう信じた。
 今、この時もそうだ! それが…進君…"野球マスク"を鎮静化するには適している。

「進君…、君のその力…"物をぶち抜く"に用いるのでは無い事は…君自身が知っている
 事だろう? …君の"今の力"は……僕達のファンに魅せる為の…恵みだよ…」
「恵み…?」
「うん♪ 過去の清算は…君のプレイ…一つ、一つに丹精を込めればいいんだ…。
 例え…それが、理不尽な力だとしても…君には…"野球を続ける義務"があるんだよ?」
「……」

 力落として…蹲っていた進君は…黙って立ち上がり…、背筋をピンと伸ばした。
 僕の言葉に反応を示してくれたみたいで、瞳を大きく見開いている。ゴーグルのお陰
 で僕の顔は、明確に描かれている筈だ。……進君は…咄嗟に僕の腕に縋り付き、まるで
 嘆願するかのように、"自分への答え"を求める…。

「……僕のプレイ…ベースボール・プレイ……、待ち望んでいる人はいるのでしょうか?」
「何を言ってるんだい。僕は…進君の野球に注ぐ熱意…、しかと受け止めている! この
 スタジアムに来るお客さんだって、君のリードに魅了されている…。僕も……君の
 リードを受けていると…どんなピンチな場面でも…落ち着ける…」

 僕は君が…君自身を"虚像"というなら、あの"妄想ゲーム"の中の進君が…"虚像"に
 ふさわしい姿…。偽りは…ただ単純なゲームの世界だけで…充分だよ。本当の……
 試合(ゲーム)の世界は想像上とは…違う。

「試合開始直前…進君がキャッチャーマスクを被る寸前、マウンドの僕に燃え滾る眼差し
 で闘志を注入してくれる。耳を澄ませば…歓声が……、放送席からは…白髪のベテラン
 実況アナウンサーと解説者との次元の高いユーモラスな話が展開しているであろう…。
 勿論…それは進君と僕の日本人バッテリーの話題さ…」
「神童…さん?」
「ハハハハッ…。駄目かな? 僕のイメージトレーニングは…」

 キョトーンとした顔つきで、長台詞を言う僕を眺める。僕が口を半開きにしている
 進君に…ウィンクをして、軽く微笑めば…進君も、手に口を当て…クスリと半笑い。
夢の続きを閲覧するように…、僕と進君は同じ場所で、もう1回…背中を合わせて
 座る。進君もゴーグルを外して…目を閉じれば、僕は…僕が抱く、"ゲームの話"を
 する…。ルールなんてものは存在しない。

 ただ…ちょっとした創造力を働かせるだけで…視界の閉ざされている世界には、
 瞬く間に"ゲーム"は浸透していく…。

 ただ…ちょっとした創造力を働かせるだけで…それは素晴らしいものになるんだよ…。


メンテ
【本人否定】〜GAME〜 ( No.5 )
日時: 2005/04/16 22:06
名前: ゴズィラ
参照: http://www.musou.up-jp.com/

 "ベーブルースはヤンキーススタジアムのホットドッグを、試合中に19個も食べた事で
 有名だけれど、あの二人がもし挑戦するとしたら、どれくらい…食べられるかな?

 "そうだねぇ、彼らは意思の疎通が図れているから、ススムがユウジロウに、サインを
 出すと同時に…そのイニングが終わってからの、食べる数も一緒に指すんだ…"

 "それはいいね。いいけど…でもぉ、首を横に振られたら…厄介だけれどね"

"う〜〜〜〜ん………?"

 
 他愛も無い、余計な話題を僕達と関連付ける放送席の面々。ワイシャツの裾を捲くり
 ネクタイを緩める姿は…これから始まる"game"の熱狂ぶりを暗示するかのようだ。
 スタジアム全体には、ラップミュージックのBGMが流れ、最新の音響設備のお陰で…
 しっくり染み渡るのだ。ポップコーンやナッツ、コーラを売り歩く金髪の青年。
 長年…一緒に野球の試合を観続けて来た、仲の良い老夫婦の姿も見える…。ハシャギ
 回る子供、その手にはファールボールを掴み取る為の、野球グローブがしっかりと。
 お気に入りの選手の名前を入れた、プラカードを持っている人もいる。皆が皆……
 1回の表…僕達選手が、グラウンドに散り散りになる瞬間を待ち遠しく思うのだ。
 
 そして、僕と進君は…試合を始まる前に…士気が集まり、熱気で漲っている…整備された
 ベンチから、コッソリ顔を出し、その様子を嬉しそうに見つめる。

「ほほぉ、千客万来だね…」
「いつもの事じゃないですか! 神童さん、今日は…宜しくお願いしますよ♪」
「あぁ! ヨロシクね!」

 僕ら二人は、互いに拳を差し出すと、それをゴツンと互いにぶつける。其処には、いつも
 の暗い影を残す進君の姿は…いないんだ。表情は、非常にリラックスしていて、試合前の
 キャッチャーミットの手入れでも、好きなミュージシャンの歌のハミングを交えながら、
 その時が来るのを楽しみにしているみたいである。それが終わると、進君は笑顔を零し
 ながら…"今日のサインはどうしましょう?"と言う。

「君は、毎回…試合直前に…サインを変えてくるから、自分の頭が回らないよ」
 と…僕は情け深げに、頭を掻き撫でていると…進君はゴーグルを指で誇らしげに上げる。
「それはですねぇ。神童さんが…ボケないようにと…その防止対策ですよ!」
「はぁ…、そうかい、そうかい。そりゃあ…僕ももう少しで三十路だけどね。30はまだ
 早いと思うよ…?」

 どうでもいいと感じる会話が…僕と進君にとっては、"絆"なのだ。年も背丈も…見た目の
 ギャップはあるけれども、心の距離は同じ高さにある…。プライドは僕よりも高いけれど
 僕の前では、気を許す彼に…本当の純粋さを感じる事が出来るのは、何物にも替え難い
 喜びがある。

「そろそろ…行こうか……、君の事を皆が待っている」
「………はい!」

 元気に飛び上がる君は、一拍子置いて…キャッチャーマスクとミットを抱えて、皆を
 先導するように…一気にベンチの外に飛び出るんだ。昔の自分をかなぐり捨て、今の自分
 を迎え入れた君は、デイゲームを飾る晴天の太陽の如く、晴々としている。ヘンテコな
 ゴーグルがなんだ…、風と舞えば薬品臭のする君のグリーンヘアーがなんだ…、一見する
 と弱り切った瞳が…なんだと言うのだ。 確かに君は…"猪狩 進"だったよ。形がどうあれ
 グラウンドに出れば…熱狂的な野球小僧に変わる…。ただ…真っ直ぐに野球を愛する
 大リーガーに様変わりするんだ。 そう…大切なのは…"変わらない事"なのさ。昔と今
 とでは大分違う。でも大丈夫、進君は…"そのままの進君"の筈さ…。

 そして、飛び出していった彼に続き、僕もゆっくりとベンチから解き放たれる。溜まりに
 溜まったものをぶつけるように、スタジアム全体からは…大きな……、否…"大きい"以上
 の歓声と、所々から聴こえるキレの良い口笛。カメラのフラッシュが焚かれ、電光掲示板
 には"It's Show Time!!"の文字が光っている…。

「進君、どうだい? 誰も君を変な目で見てはいないさ。これが"君を待ち望んでいる"事
 なんだよ!」
「そっか…。そうですよね! 何か僕…こんなに胸の高鳴りが抑えられなくなったのは、
 本当に…本当に…久しぶりです!」
「僕も! 今日は…実に楽しめそうだ!」
「……はい! それでは…始めましょう」

 マウンドに立つ僕に嬉しそうに話し、進君はスタスタとバッターボックスに歩いてゆく。
 そして其処から僕を、目を細め…真剣な眼差しで……そうさ、さっき僕が言っていた
 "燃え滾る眼差し"そのものだ! 彼は僕を奮い立たせるように、力一杯に頷く…。
 僕も…それに、グラブの中でボールを転がしながら…同調するように、頷く……。

 すると、君は恥ずかしそうに…顔を綻ばせ、ゴーグルの位置を微調整する。そして、
 君がキャッチャーマスクを被った…刹那……、スタジアムは第2波の熱気にことごとく
 さらわれる。進君がしゃがみ込むと、相手チームの一番バッターがバッターボックスに
 入り…、主審の"PLAY BALL!!"の叫びと共に…いよいよ、試合が始まった…。

 君が第一球目のサインを出す。

 僕が快く、首を縦に振れば…君は口元をニヤリとさせ…グラブを構える。

 僕が大きいオーバースローの体勢から、思い切り…サイン通りに投じれば…、君は
 体をウズウズさせながら、僕の…ボールを……受け取る。サイン通りの内角際どい
 コースに決まり、主審は文句無しに"ストライク!"と叫びながら、やや大袈裟に
 ジェスチャーをするのである…。 思わず、僕も進君も…目立たない程度に、小さく
 ガッツポーズ! そう…、この時…この瞬間…、僕らは野球に夢中になる、"ただの
 野球選手"になったんだ。進君が気持ちの良い笑顔を潤ませ…僕に返球すれば…、
 僕は…何もかもの邪念を拭い去って、次の投球に移る事が出来る…。

「イイゾォ! "パーフェクト・バッテリー"!!」
 観客席から、缶ビールを片手にしたお客さんが熱い声援が木霊する。まだ、ワン・
 ストライクが入ったばかりなのに、試合はまだ始まったばかりなのに…、所々から
 大きな拍手が飛び交う。 …"パーフェクト・バッテリー"……か…。

 そうだね、僕と君なら━━…
メンテ
【本人否定】〜GAME〜 ( No.6 )
日時: 2005/04/16 22:08
名前: ゴズィラ
参照: http://www.musou.up-jp.com/

 ━━━ガギィ…!!
 
 神童さんのウィニングショットである、切れ味鋭いスライダーは、僕のミットに納まる
 事はせず、相手チームの右打者のバッドの根元に当たり、飛球は…力無く、しかし…
 ホームベース頭上に高々と打ち上げられた。完璧な打ち損ないである。キャッチャー
 マスクを投げ捨てるように外し、僕は上空の気紛れな風に流される、ボールの行方を
 追う。流されているとはいえ、充分に手の届く範囲だろう…。バックネットに向かって
 僕は走る、追う。

 追う…。追う……。そして、ゆっくりと落ちて来るボールをグラブの中に捕まえんと
 している瞬間…僕の目の前に飛び込んでくるのは、バックネットのフェンスだった…。
 グラブにボールを収めると同時に、僕の体はしたたかに、そのフェンスにぶつかった。

「進君!!」
 神童さんは驚愕しながらも、僕がぶつかる様を…呆然と見守るしかないのであった。
 全身が跳ね返され、僕の目元で…"バリッ!"と耳を引っ掻かれるような音も聞こえる。
 でも…僕の執念はあくまで、ボールに向けられているもので、周りの状況は気にも
 留める事は無かったのである。━━━あの投球は、僕が受けるものだった…。だから
 こそ、どんな形であれ…受け止めなければいけない…。

 それは些細な我侭…なのかもしれないけれど、でもそれくらいに…神童さんの全力投球
 を無駄には出来ないという、強い思いが…何層にも渡って重なっていると、誇示づける
 僕がいる。そんな考え…神童さんには通用するのかな?

「アウトォォォ!!」
 コテンと倒れ込んでいる僕のグラブに、しっかりボールが吸い込まれているのを確認
 し、主審が腕を大きく振って、打者の凡退宣告を告げる。
「……よし!」
 またもや、僕は余りにも小さなガッツポーズをする。大丈夫、あれだけ…強く全身を
 打ったけれど……、僕自身、痛みは感じないのだ。こういう時に…"この体を手に入れて
 良かった"と切実に思う僕の気持ちが、痛かった…。

 僕は大きく息を吸って、その場から身を起こす。高々とボールの入っているグラブを
 天に掲げ……"アウト"のアピールをする。観客席やベンチからも、驚きの混じった
 歓声と惜しみない拍手が響き渡る。そして…チームメイトの皆も…グラブをバシバシ
 叩いて…喜んでくれている。勿論…神童さんだって…。

 そうか…、この力は…"皆の為に使いなさい"という、神様からのささやかな贈り物
 なのかな…。重大な責任だけれど、それは僕が僕の判断で、別れ道の一つを選んだ結果。
 お客さんや、グラウンドにいるチームメイトや、…そして、大切なパートナー…
 神童 裕二郎という選手の為に…この力を用いるのかな? "破壊"ではなく、野球の
 喜び…嬉しさ…楽しさ…全てを含蓄している宝物だとしたら…?

 もし…この疑問が全て正当だとすれば、僕は喜んでこの力を使おうじゃないか。
 まだ…答えは分からないけれど、きっと…この"ゲーム"から解放される時には…
 僕の解答は決まっている…。

「……進君、体はOKかな?」
「はい! 大丈夫ですよ! ……これ、ボールです」
 僕はマウンドに立っている神童さんに駆け寄り、ボールを直接…手渡しした。
 やっぱり…其処には笑顔が似合う、神童さんが居て…。"あぁ、僕はこんな凄い
 人から…今まで何年も…バッテリーを組んできたんだな…"と…不思議に満ちる。

 ボールを渡し、ほくそ笑んでいると…突然に、神童さんはちょっぴり残念な顔を
 浮かべる。僕の"緑色の髪"の上に…ゆっくりと手を翳している。……そんな、神童
 さんは…"僕の心の内"を悟っているかのようで、僕に尚も優しく微笑んでいた。

「"答え"は…見つかったかな? 進君…本当にすまないけれど、時間が来たようだね…」
「えっ…? 時間…って、一体どういう事なんでしょうか…」
「…………ハハハハッ! "game"の終わりだよ…」
「そうでしたね! ……ごめんなさい。…つい、楽しくなっちゃって…」

 そうですね…。そういえば…これは、神童さんの思い描いていた世界でしたね。
 その中で僕は……一生懸命に走っていた! あの飛球を追いかけていた時も……、
 ボールの他に、僕の真の意味で捉えたかった何かが…あったのかもしれない…。

 "答え"…。"答え"…。僕から僕に捧げる答え…。

「進君、ゴーグル…ヒビが入ってるみたいだけど…」
「えっ? ……あぁ、気が付かなかったですよ!」

 ゴーグルの左眼のレンズに触れると、成る程…やや広範囲にヒビ割れが入っているのが
 分かった。それと伴い、視界にも亀裂が入ってるみたいだけど…、心配する必要は、
 多分無い。ゲームが終了すれば…それは元通りになっているだろうから。いつもなら、
 嫌気が差して堪らない僕の"人口眼"だけれど、何だか…今となって見れば、僕のちょっぴり
 小さい相棒。僕の眼となり、また歩みの灯台となる、もう一つの相棒……。

「…………楽しかったです。こんな素敵な事が…現実でも起これば…」
「起こるさ!」

 ド〜ンと神童さんは頼もしそうに、拳を胸に当てる。誇らしげに…僕も…彼みたく
 なってみたいものだ。そして、僕のゴーグルは…ゲームの終わりを刻々と示す事になる。
 
 やがて……歓声が消え、スタジアムも消え……グラウンドも、一緒に立っていたマウンド
 も…消えた。後に残るは、真っ白い…何もかもがハサミで綺麗に切り取られた幻…。
 "夢のようで…本当に夢だった世界"は拭い去られ…見つめる先は…白い霧に覆われる。
 その白くほのかに淡い霧の中に…僕と神童さんだけが…見受けられている。

      ━━━━……ありがとうございます…。神童さん!━━━━…

             僕が深々とお辞儀をすれば…。

      ━━━━……早く…君の答えが…見つかるといいね…━━━━…

           "はい…僕も、そう思っていますよ"


 そして…白い霧の空間からは、強い光が染み出てきて…僕と神童さんを包み込む。
 そうだ、僕らは"ゲーム"から"リアル"に戻る…。完全に…視界が光で閉ざされた時…
 神童さんの創造した世界は終わりを迎えたのだ…。

 …僕が…、次に目を開けたときは…いつも通りの、ポールの聳えるライトフェンスの
 近くに座っているはずさ。その近くには神童さんも居るはずさ。そんな予想をしている
 自分だけれど…これだけはズバリ言える。

 "答え"…。"答え"…。僕から僕に捧げる答え…。
 その答えは…絶対に自分を否定しない答えだと…。今の自分を…認める答えだと…。

 僕が目を覚ませば…きっと、其処は別世界━━━…
 "現実"であろうと…其処は…僕にとっては、別世界だろうね…。僕が、いつまでも…
 微笑んでいられような…素晴らしき日常…。ゴーグルを外しても、暗闇ではなく…光が
 漂う日常であることを…僕は願いたいな…。




      "…そういや、この後は…神童さんと投球練習だったね……"






fin.




【あとがき】

 私の中では、全体的に弱い作品だなぁ…と読み返す度に、常々思えてきて、悲しい気分
 に苛まれます。このコンビ…恐らく、パワプロキャラでは…私が一番気に入っている
 コンビでして…パワプロノベルデビュー作【きりたんぽ回想録】でも、神童と進を
 主人公として登場させています。(今となっては、もはや幻の処女作ですが)今回、
 再び…再登場してきちまった訳ですが、如何でしたでしょうか? とりあえず、これは
 変則的で、尚且つ、内容が分かる人にだけにしか良く分からない…と感じるので、
 万人受けには程遠い小説ですね。("ヨネザワ"はパワプロを知らない方でも、辛うじて
 最後まで読んで貰える内容にしたつもり…)何だよ…野球マスクってよぉ…とか、あぁ…
 そんなもどかしい叫びが聞こえてきそうです。 そんなもどかしい作品を、最後まで
 読んで誠実にくださった、パワプロファンの方…また興味本位で読んでくださった
 そうでもない方を含めて、心より感謝致します。



                    2005年 2月 1日 執筆完了
                    2005年 3月15日 あとがき執筆完了

                           writeen by ゴズィラ



 (小説コンクール「一筆夢想」第9回・最優秀賞受賞)
メンテ

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