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螺旋を描いて
日時: 2005/08/06 16:34
名前: 妃薙瀬ユウ

 今日は、学校に行かなければならない。そう思うと、少し憂鬱だ。
 私は篠月舞芹亜。どこにでもいる普通の女の子だ。父と母は5年前に離婚し、莫大な収入を得ている父が私を引き取った。その父も、3ヶ月前に病気で死んだ。莫大な遺産を私にたくして。母は、離婚した1年後に再婚したと聞いた。今、私は一人暮らし。父の残してくれた財産のおかげでお金には困らないけれど、ひとつ、問題があった。
           ―私には親戚が多すぎること―
 父の先祖は、少なからず3人は子供を授かっていた。おかげで、毎日のように親戚が来る。こっちは学生、そう毎日も相手にしてられないのに…。
 私は、いつもは学校へは行っていない。独学で勉強だってできるし、親戚には、教師・医者などはたくさんいる。行かなくてもいいのに、今日は―…同い年の親戚が3人、私の学校に転校してくる。学校に行かなければ。毎日。どうしよう。会いたくない。あの3人には、会いたくなかったのに…。
 
 私の通っている学校は、私立“聖スパイラル病院付属学院中学校”という。聖スパイラル病院とは、親戚の兄さん・叶誠という人が院長の病院だ。学校を首席で卒業したという、エリート中のエリートで、この学校の指定医でもある。女子にも人気のある、クールでかっこいい先生だ。
 私は2年1組のクラス。今日転校してくる3人も、同じクラスなんだそうだ。なんでも、学院長が、誰も知らないクラスで、バラバラのクラスにするのは可哀相だということで、そうしたらしい。私は勘弁してほしいと思う。どうせ、すぐクラスに馴染むに決まっている。なぜなら、3人は性格はどうであれ、顔は中学生かと思うほどの美形だからだ。女子達は、3人の顔を見た瞬間、クラクラッとなってしまうだろう。
 案の定、クラスの女子達はクラクラっときた。私の前の席の香奈なんか、気を失って保健室に運ばれたくらいだ。
 3人は、クールで、口数の少ない彪渉梧(あやしょうご)と、少しあどけない顔をしているが、根っからのイタズラ好きの虎祐汰(こうた)と、女好き(言うなら女たらし)の雅(まさ)だ。母親は違うが、父が全て同じなので苗字が同じだ。
 私は、2年前に3人と会ったきりで、それ以来会っていなかった。それなりに変わっただろうと思い会ってみると、すっかり大人の男の人になっていて、驚いた。顔付きも、2年前の面影は殆どなく、「これが、私の親戚?」と、思わず思ってしまう程だ。                      私は、3人のように綺麗でもなく、これといって美人というわけでもなかった。だから、3人が紹介されたときには、大半以上の女子に睨まれた。
         ―本当に勘弁してよ…―
 
 1時間目は理科。私は、理科の実験の物を取りに準備室へ向かおうとしたとき、ふいに肩を掴まれた。
「待てって」
後ろにいたのは、女好きの雅だった。
「…何?」
私は雅を見上げ、ぶっきらぼうに言った。雅は、私よりも遥かに身長が高い。
「理科室ってどこだよ?」
なぜ雅は私に聞いてくるのだろう。
「…クラスの女子に聞けばいいでしょ。一目惚れの人、多いんだから」
雅はにっこりして言った。
「お前と一緒に行くなv」
語尾にハートマークをつけ、私の手を握った。
鳥肌がたった。
「やめてよ。手、つながないで」
私はその手を振りほどいた。
雅が「ちぇっ」と舌打ちするのが聞こえた。
「いいじゃん。親戚のよしみ、手ぇぐらいつないだって」
私は雅を無視し、準備室へ物を取りに行った。

 準備室へ入り、雅がついて来ないのを確認すると、ほっと息をついた。
(女に困ってないし、おまけに女好きの雅が何で私に話し掛けてくるの?)
 持っていかなければいけない物を探すために棚を見渡す。
「あ、あった」
目的の物は棚の上段だった。
「手、届かないし…」
私はどうにかしないとと思い、何か踏み台になるものを探した。
(無い…っていうよりも物が多くて探せない)
準備室は物が多く、その上狭い。
私は焦った。
「早くしないと遅れる」
遅刻はかまわないけれど、久し振りに学校に来たのに、一時限目で遅刻は勘弁してほしいと思う。
(先生も、背の低い私じゃなくて、背の高い委員長にすればいいのに) 
と思う。ちなみに委員長はクラス委員長だ(本名・飯塚カオリ)。
「ん〜、届かな…!」
後ろから物音がした。
「誰?」
少し警戒した。
コツ…と、靴の音がした。
「俺だ」
後ろにいたのは、渉梧だった。口数が少ないので、私は渉梧と話すときはいつも少なからず緊張していた。
「渉梧…」
今も少し緊張している。
「担任に、手伝ってやれと言われた。お前は背が低かったからな」
  …先生、余計なことを…。
「どれを取りたいんだ。手伝ってやるぞ」
渉梧は私の背後に立ち、私の言葉を待っている。
「…えっと、スライド…」
渉梧は私の言葉を聞くと、背伸びもせずにひょいと取った。
「…ありがとう」
内心、逆のことを思っていた。
(何でよりによって渉梧なの?委員長にすればいいのに)
「これだけか?」
私を見下ろしながら渉梧が言った(渉梧の場合、呟いたというのが正しいだろう)。
「…う…ん。これだけ…」
渉梧に見下ろされているのがなぜか嫌で、私は俯いた。
「そうか。ならば行くぞ」
スライドを持ち、私の後ろに立って、準備室を出るよう促した。
「あ、スライド…私が持つ」
持とうとすると渉梧が以外なことを言った。
「いい、俺が持つ」
何がなんだか、私にはわからなかった。
 2年間という空白の中、3人は、一体どうなってしまったのだろう?あの渉梧が、気軽(?)に話し掛けてくれるなんて…とても考えられなかった。

 理科の実験中、私は、女子たちからの冷たい視線を受け続けた。
 あの3人と知り合いなだけで、どうしてこうも居づらくなってしまうのだろう?
(私も例外じゃないけれど、やっぱり、オンナって恐い)
そう思うしかなかった。
 ひそひそと、小さな声で委員長とグループの人たちが何か話しているのを聞いた気がした。

  リンゴーン リンゴーン
 鐘が鳴り、理科の実験が終わった。
 実験の道具を片付けるのも私の仕事だ。
「篠月、久し振りに来て悪いけど、後はよろしくな」
理科の佐々木先生が言った。
「わかりました」
かまわない。女子たちといる時間が短くなるだけだから。それに、次の時間は数学だから、準備の物は少ないから、この時間は都合がいい。
「まーせつ!」
後ろから飛びついて来たのは虎祐汰だった。
さすがイタズラ好き…。背後には気を付けなければ。
「虎祐汰、困る。今スライド持ってるから、落とすと割れる」
 虎祐汰は私に笑いかけた。
「昔と変わったね、やっぱり。ボクはマセツの驚いた顔が、誰のよりも好きだったのになぁ」
遠い目をしてしゃべる虎祐汰をよそに、私は
(そんなんで好きだったとか言われても嬉しくないし)
と複雑な心境だった。
 思い出したように、虎祐汰が振り向いた。
「そのスライド、持っていくの手伝うね」
…虎祐汰、きっと何か企んでるな。
思っていることはおくびにも出さないで、あっさり断った。
「来なくていい」
イタズラされて物が壊れるのもそうだが、周りにいる女子たちの目が恐かったのも事実だ。
 虎祐汰はそんなこととは露知らず、小動物のように私の周りをうろうろしていた。
「え〜、何で〜?」
「邪魔」
私は、理由を一言で告げると、教室を後に…しようとした、が。
「ね〜、邪魔しないからー!」
虎祐汰は結構しつこい。
私はもううるさくなって、やけになって言った。
「もう、うるさい。いいよ、ついてきても」
少々投げやりだったが、私の肯定の言葉に素直についてきた。虎祐汰のせいで私、明日はもう殺されてるかもと、ありえないようなことを考えながら準備室へと向かった。                                                虎祐汰と、渉梧と、雅と一緒に―…。

 
 「もうっ、何で二人までいるの!?」
と、お決まりのような疑問を投げ掛けた。
 ただし、「でていけ!」という喉まで出かかった言葉は飲み込んだ。「何だ、虎祐汰と二人がよかったの?」と雅が言ってくるのは確実だったからだ。否定したとしても、理由を聞かれたら答えようもない。
 私の質問に、渉梧が答えた。
「二人だと、何かと大変だと思ってな」
渉梧が言い終わった途端に雅がへらっと笑い掛けてきた。
「そうそ!二人で協力したからってぎりぎりだろうし。
だからオレたちがきたんだよv」
…あぁ、また語尾にハートマーク付けやがった。
それに、何か侮辱された気も…。
「…いいよ、いてもいいけど、物、壊さないで。と、手伝わないで」
私は三人の手を借りずにやろうとした。
そのとき、ふいに後ろから嫌な感じが…。
 ガッシャーン!!!
盛大な音が準備室に響いた。
「!!!!!!」
私はびっくりして、スライドを落としそうになった。
「どうしたの!?」
後ろを振り向くと、虎祐汰が雅と渉梧に叱られていた。
「てへっ、ごめんv」
怒られても悪気のなさそうな顔をして、虎祐汰はペロッと舌を出した。
虎祐汰の足元を見ると、そこには超が付いていいほどの、貴重なホルマリン漬けの容器が割れていた。中身も流れ出て、取り返しのつかないことになっている。
「ちょっと、何やってるの?貴重なホルマリン漬けを。壊すなって言ったのに」
私は冷静に言った。
「マセツ…冷たい」
涙目になる虎祐汰をよそに、私は先生に知らせに行こうと思って準備室を出た。
  ―やっぱり連れて来なければよかった―
少し後悔しながらも、後の祭りだ。しかたがない。連れてきた私が悪いんだから。

メンテ
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